朝靄がまだ晴れぬうちに、私はモントリオールの駅からヴィア・レイルの列車に乗り込んだ。窓の外には果てしない緑の平原が広がり、荒々しくも柔らかな筆致で描かれた未完の画のようだった。台北の山々に抱かれて育った私にとって、峰々の重圧は馴染み深いものだったが、この平坦な緑の海は心を軽く解き放つ。シャッターを切ると、レンズは遠くの農家の影を捉え、朝陽が地平から顔を覗かせ、田野の縁を薄紅に染めた。ケベックに着いたのは午前十時、駅の外に立つと、シャトー・フロンテナックが静かに佇み、銅緑の屋根が青空に微かな光を放つ。急な坂を登り、汗が額に滲むが、Hi Quebecの宿で荷を下ろした瞬間、不思議な安堵が胸に広がった。手に握られた無料のバス券は、未知への誘いのように感じられた。

城壁:光と影の見張り
宿の戸口を右に曲がると、ケベック城壁が静かに横たわる。四世紀の風雪を耐えた石たちは、今なお立ち上がり、北米の戦と平和を囁く。私はカメラを構え、東から射す陽光が石の隙間を詩のように流れるのを見た。ファインダー越しに、大砲台の孤独が浮かび、サン・ローラン川の遠景が銀の帯のように輝く。旅人はここを「北米の中世の境界」と呼ぶが、私には老人が沈黙のうちに歳月を見守る姿に映る。

聖母大聖堂:信仰の現代の調べ
坂を下ると、ケベック聖母大聖堂が視界に現れる。扉を開けると、色ガラスが陽光を七色の破片に砕き、木の椅子にそっと降り注ぐ。空気には古の香が漂う。だが、奉献箱の傍に立つクレジットカードの機械、Apple Payの光が瞬くのを見て、私は小さく笑った――信仰さえも現代の衣を纏う。シャッターがその矛盾を切り取り、金の祭壇と科学の出会いを捉える。儀式の重厚さは薄れ、生の現実が顔を出す。教会の外に立ち、石畳を振り返ると、陽光が屋根の間で踊り、ファインダーの中の街は新旧が織りなす詩を低く歌う。
画家の小路とデュフェラン台:芸術と川の光の語らい
画家の小路を抜けると、画家たちの筆がキャンバスに舞い、古都の風景が色彩に閉じ込められる。私は足を止め、50ミリのレンズで画家の横顔を切り取り、後ろの絵は暖かな色に溶ける。

ファインダーの中の光景は、静止した夢のようだ。小路の果て、デュフェラン台へ出ると、サン・ローラン川が主役となる。夏の川面に舟影が揺れ、陽光が砕けた金のように散る。私はカメラを手に、偏光鏡で眩しさを抑え、澄んだ青と緑を残した。シャトー・フロンテナックが傍らに立ち、川の流れと旅人の足跡を静かに見つめる。
プティ・シャンプランとロワイヤル広場:石畳に響く時
首折れ階段は息を呑むほど急で、私は高みからプティ・シャンプランを見下ろす。石畳が陽光に微かに輝き、花籠が店先に吊るされ、夏の音符のようだ。シャッターを切り、レンズが「カナダで最も美しい歩道」の全景を収める。小さな壁画が路傍で昔の暮らしを語る。川沿いを歩き、ロワイヤル広場へ。勝利の聖母教会は控えめに佇み、石畳の広場は静寂に包まれる。私は振り返り、ケベック大壁画が目に飛び込む。五階の高さに歴史の人物が立ち、私をファインダー越しに見つめ、この地の息吹を聴いたかと問う。
展望台:星の砦と天の凝視
夕暮れ、私はキャピタルの展望台に登る。31階の窓から、ケベック古都の天際が広がる。シャトー・フロンテナックの屋根が夕陽に金色に輝き、城壁が詩のように蛇行し、遠くケベック城塞の星形の輪郭がかすかに揺れる。レンズを向けると、台南の熱蘭遮城の残骸が心に浮かぶ。海と時が全てを奪い、歴史の嘆息だけを残した。北海道の五稜郭もまた、北の静寂を守る。私はシャッターを切り、ファインダーの中のケベックが時空を超えて遠くの砦と囁き合う。陽が沈み、空が橙に染まる。この光と影は永遠となる。
夜:シャトーの輝き
ケーブルカーでデュフェラン台に戻り、シャトー・フロンテナックが夜に灯りをともす。古都の頂に嵌め込まれた珠のように輝く。私は近づき、低速シャッターでその姿を映し、サン・ローラン川の波光と灯火が織りなす夢を捉える。旅人は館内の豪華を語るが、私は外壁の静けさに心を寄せる。夜の帳に、この都の伝説がそっと響く。
終曲:鏡の中の詩
夜が更け、宿に戻る。カメラには一日の光と影が詰まっている。翌朝、バスが私をケベック空港へと運び、バンクーバーへの旅が始まる。だが今、私はまだ古都の記憶に沈む。ファインダーを通して見たのは風景ではなく、歴史の流れが鏡に映る姿だった。城壁の隙間から、聖母の色ガラス、画家の筆先、星の砦の角まで、一枚一枚が詩となり、一筋の光が時の囁きとなる。ケベック古都は、無言の詩人だ。光と影で、この夏の彷徨を綴ってくれた。
写真家の後記
この旅で、私はケベック魂をレンズに収めた。夏の光は強く温かく、NDフィルターと偏光鏡が川と空の輝きを抑える。夜は三脚と低速シャッターで、灯火と映し身の詩を切り取る。もう一度訪れるなら、展望台で日没を待ち、星の砦に深い刻印を求めるだろう。ケベック古都は、光と影の語らいだ。私はただ、シャッターを押す旅人として、鏡の中で詩の足跡を探した。

カナダに関するその他の記事
LEIOWLをもっと見る
購読すると最新の投稿がメールで送信されます。